8.20.2014

夏の海

夏なので海に行った。
一年前にも其の場所に居た。しかし朝方煮えたぎる暑さで目覚めた私の昨夜の記憶はその時既に酒と海水に飲まれ跡形もなく、二日酔いの塊と晴天の海だけを残していた。
今年も其処へ行こうと連れに誘われたが、やや身を忙しくしており迷いあぐねていたものの、結論やはり夏なので行こうと思い立った時には既に連れとの集合時間には間に合わぬ時間であった。最寄りの駅から目的地まではバスに乗らねばならないのだがもう無い。よし、タクシーになんて乗らずスケートボードに乗ってプッシュで行こうと決意を新たに家を出た。
電車に乗り約一時間半ほど揺られその周辺の駅に到着し、目的地に向けプッシュを始めた。海岸沿いを走っていたが見知らぬ土地で一人、更に夜の海からは何やら不穏な雰囲気が感じられる。人はおらず街灯も少ない、車もろくに通らない。本の地図は見れるが携帯電話の地図にいまいち馴染めない私は不安を抱えながらひたすらプッシュした。後ろから来た車が暫く私の横を並走し通りすぎて行った。目的地はどうせ一緒だろ、乗せてくれよ。程なく電話が鳴った、先に目的地に着いている連れからで私の現在地は目的地までもうすぐらしい。更には迎えの者を出すと。安堵と共に見覚えのある深夜に開いていないコンビニエンスストアに辿りついた。先程並走していた車が停まっていた、やはり一緒じゃねえか。
ここから全く街灯が無くなった。私は灯かりの一つも持っていなかったが携帯電話に懐中電灯の機能を用意していた、よし出番だ。意気揚々と点灯したが、案の定全く明るくない。役立たずも甚だしい。怒りを堪え暗闇を進んだ。大分進んだはずだが未だ迎えの者に会っていない。もしかして道を間違えたんだろうか。不安をよそに私の携帯電話の電池はここにきて息絶えた。今夜連れと合流できなかったら一人で海で夜を明かすことになるのか。しかしここまで来てもう後には引けぬ。不安をよそに私はひたすら進んだ。
遂に道が開け昨年に見た覚えのある海岸まで辿りついた。しかし迎えの者は何処へ。差し詰め目的地まで行けばなんとかなるだろうと歩いていると前から来た者に顔を照らされた。無礼な輩だな。嗚呼、迎えの者じゃないか、遅せぇよ。私は皆と辿り着いた喜びを分かち合った。その矢先浜辺にタイヤをとられ立ち往生していた見知らぬ車を助けた。旅は道連れ世は情けということか。

我々は灯かり一つない岩場で酒を片手に他愛もない話に花を咲かせていた。知識もそぞろに星や宇宙の話なぞと。そんな中ふと沖の方に妙に安定して直立した人影がひょうひょうと進んで行くのが見えた。それは察するにサーフボードのような物の上に立ちオールを漕いで進んでいた。しかしその日は台風が近づいており波が程々高い状態だった。あんなに沖まで行って大丈夫なのかとやや不安げに眺めていたが、何にせ灯かりが無いためすぐに其れは見えなくなった。気にせず話を続けていた我々だが、一人の男がこちらに近づき、先程ボートに乗った者を見かけなかったかと尋ねてきた。我々はその人物は沖の方へ行ったきり見かけてないと答えたところ、彼は酔っぱらって海に出てしまい未だに戻って来ていないと。口には出さなかったが、ああこれは仏と化してしまったなと私は思ったが皆も思ったに違いない。我々は其のことを気に留めぬつもりで話を続けたがどうにも気が気でない。しかし暗闇の海中を探しようもないので、これは気にしない以外の道は無いと諦めトトロの話しなぞをしていた所、暫く経ち先ほどの男が、見つかりました、無事に戻ってきました、と声高らかに伝えにやってきた。全く酔っぱらいとは迷惑なものだ。我々は其の人物が無事であった喜びを大いに分かち合った。旅は道連れ世は情けであった。

程なく、先ほどと同じく直立の人影が沖の方へ進んで行った。但し先程との違いは腕に申し訳程度の明かりが点いていた。嗚呼此れか、夏というのは。

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